Story - Episode9 | 山陰まんなかを巡る旅

手作りの逸品と紅葉の名所

山陰地方の中心部には、さまざまな伝統的な素材から作られた手工芸品がたくさんあります(陶器についてはエピソード7をご覧ください)。私たちは、絣(布)職人、鍛冶屋(鉄から燭台、花瓶、刃物などを作る)、和紙職人、組子細工職人の工房を訪問し、古くから伝わる職人技の一部を体験できます。
また、11月頃に訪れるなら紅葉も楽しみたいところ。寺社境内や渓谷を彩る紅葉の美しさは、忘れられない思い出となるでしょう。

初日は、米子空港から住宅街へ向かう途中にある「弓浜絣工房B」へ。絣とは、あらかじめ柄に合わせて染めた糸を経糸と緯糸に使い、布を織る複雑な織物の技法。異なる色の糸を組み合わせるのではなく、糸を部分的に染めることで柄を出すため、織り手側の綿密な計画が求められる難度の高い織り方です。職人の佛坂香奈子さんは、原料で糸を紡ぐところから、布を染めて織るまで、すべての工程をひとりでこなします。
生育条件に恵まれたこの地で栽培される伯州綿は繊維が太く短いため、「糸を紡ぐときの力加減が難しい」と話す佛坂さん。織り始める前に糸を模様に合わせて染め、織り進むうちに模様が徐々に浮かび上がってくるので、織りの工程も大変です。着物の需要が減った現代では、バッグや小物が多く作られており、2020年はマスクが大人気でした。

糸紡ぎ車を使って糸を紡ぐ佛坂さん。後ろには織機が並んでいる / 佛坂さんの作品例

国道431号線を南下し、道沿いにある「アジア博物館」へ。館内には五つの展示室があり、弓浜絣をはじめとする日本各地の絣の展示や、「敦煌」「おろしや国酔夢譚」などの歴史小説で知られる作家・井上靖の書斎や応接室を再現した「井上靖記念館」もあります。

絣館では様々な絣のデザインを展示しています。庭園には染料や繊維の原料となる植物が植えられています。

弓ヶ浜半島のさらに南には、紅葉の名所として有名な「宗形神社」があります。この神社は1000年以上の歴史を持ちます。紅葉の季節には、境内へのアプローチを覆うように楓の木が植えられ、散りばめられた紅葉が地面を彩ります。

参道には樹齢数百年の古木も生えている

皆生温泉は、弓ヶ浜半島に位置する海辺の温泉リゾートです。このリゾートには多くの大型旅館(日本式の宿泊施設)があり、2020年に100周年を迎えました。皆生温泉は美肌に良い温泉で知られています。海を望む部屋やお風呂もあります。

温泉街の中心には、灯りをともすと様々な模様が浮かび上がる提灯が並んでいる。

2日目には、安来市の山中にある清水寺へ向かいます。11月には紅葉が見頃で、赤い葉が曲がりくねった石畳の道を覆います。本堂と三重の塔は石垣の上に立ち、境内を見下ろしています(工事のため、三重の塔は2021年の3月まで閉鎖されています)。

大きな杉と炎色のカエデの木々 / 境内から三重の塔を見上げる

県道257号線を進むとかなり狭い道ですが、伝統的な日本の田園風景が続きます。広瀬町には「鍛冶工房弘光(鍛冶の工房)」があります。鍛冶は熱い金属を打つことで製品を作りますが、ここでは鉄を約1000℃に熱した炭で加熱する歴史的な方法を使用しています。鍛冶師は「手は道具の延長です」と語ります。曲線が美しい燭台や花瓶は、職人の傑作です。簡単な燭台作り体験もできます。(要予約、10000円~)。

火花を散らす炭の中で鉄を熱する / 熱した状態で叩くと展性がある /
ワークショップで作ることができる燭台。プレートに穴を開けると光の模様が作られます

国道432号線北側にある「安部榮四郎記念館」は、和紙の博物館で、文部科学大臣指定の人間国宝「重要無形文化財保持者」である安部榮四郎が完成させた民藝品を紹介する博物館です。しなやかさと強さを兼ね備えた和紙は、普段使っている紙とは全く違う芸術性に富んだもので、その技術は榮四郎氏の孫である信一郎・紀正兄弟に受け継がれています。
近年は障子やふすまなど生活用品への和紙の使用が減少し、日本国内での和紙需要は激減していますが、ミュージアムショップでは名刺やポストカード、封筒など生活に密着した和紙を販売しています。ポストカード作りなど、さまざまな体験もできます(要予約、入場料500円別途)。

和紙の原料から和紙を漉いている様子/ポストカード作りを体験/様々な和紙を展示している展示室

宍道湖南岸沿いに走る国道9号線を西へ進み、出雲市中心部から南の山中にある立久恵峡の「八光園」に宿泊。神戸川の渓谷に面した露天風呂があり、そびえ立つ岩山を眺めながら入浴できます。客室やダイニングルームからも渓谷が眺められ、夜にはライトアップされます。
食事は、島根和牛や鰻の蒲焼き、刺身、天ぷら、茶碗蒸しなど、日本の伝統料理を豊富に取り揃えた懐石料理です。日本の懐石料理は、温かい料理も冷たい料理も含め、数多くの小皿料理で構成されており、それぞれが芸術作品のように精巧に作られています。

八光園の露天風呂。 / 八光園の懐石料理の一例。季節によって魚や天ぷらの具材が変わります

3日目は宿をチェックアウトする前に立久恵峡を散策。吊り橋を渡り、渓谷沿いの遊歩道を約1時間で1周できます。霊光寺付近の岸壁には500体の羅漢像や1000体の仏が彫られ、神秘的な雰囲気を醸し出しています。

谷沿いに500体の羅漢像と1000体の仏像

八光園から車ですぐの「高橋鍛冶屋」では、安来鋼を使った包丁や刃物、看板や花瓶などを製作しています。四代目鍛冶職人の高橋勉さんが鋼を薄く伸ばし、熱して叩いて形を整え、徐々に包丁の形にしていきます。その後、焼入れ、焼き戻しを経て砥石で研ぎ、柄をつけて完成です。購入者には研ぎのメンテナンスと柄の交換が無料なので、一生使えます。小包丁作り体験もできます(1週間前までに予約、8800円)。

熱い鋼を打つ高橋さん / (左から)小刀、三徳包丁、万能包丁 /
花瓶や燭台など様々な商品

国道184号線を北上し、出雲市の中心街にある「祥雲出づるところ」にたどり着きました。ここは、釘を使わず薄い木を組み合わせて作る格子細工の1種「組子細工」の工房です。通常は障子などの平たいものに使われる組子細工ですが、ここでは球形の提灯を作っています。
先代を継いだ唯一の弟子、糸賀祥子さんは「丸い形が一番難しく、すべて手作りなので時間がかかります」と話します。作品からは優しく柔らかな光が放たれます。

糸賀さんが作った神灯行灯。名前の由来は「神の灯り」 / 切り込みを入れた小さな木片を組み合わせて作る

モデルコース

モデルコースマップ Episode9

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