陶芸 -手仕事の美しさ-
山陰地方の中心部には、多くの陶芸工房が集まっています。これは、1926年に始まった民藝運動の影響を受けた陶芸家がこの地域に多く住んでいたためです。「民藝」とは「民衆の工芸品、庶民の芸術」を意味します。
「民藝運動」は、日常の必需品に美を見出し、活用することを目指したものでした。現代の陶器は、伝統的な民藝のデザインと現代的なアレンジを組み合わせています。
大山の麓、法勝寺川のほとりに建つ「法勝寺焼松花窯」。1903年に創業し、現在の安藤真澄さんは4代目。大山の火山灰を含んだ土を使い、娘さんとともに椀やカップなどを焼いています。
2020年に開館50周年を迎えた足立美術館には、魯山人の陶磁器が約400点が収蔵されています。同美術館は、全米誌ランキング17年連続1位を誇る日本庭園としても有名です。陶磁器作品のほか、「器は食の着物」という言葉があるように、書や篆刻も充実しています。春には「魯山人館」がオープンし、魯山人の作品を鑑賞できるよう照明などの工夫がされています。
陶器の柔らかな曲線や独特の色彩に魅了されたら、陶芸を体験したくなるはず。「いまみや工房」では、電動ろくろを使ってお皿やカップなどを作ることができます(3850円~)。陶芸家が時間をかけて丁寧に教えてくれるので、初めてでも充実した体験ができます。
玉湯川沿いには十数軒の宿が立ち並んでいます。今宵の宿は玉造温泉。8世紀の歴史書にも登場するこの温泉は、「化粧水のよう」といわれるほどの保湿効果があり、女性に大人気です。
宿「長楽園」には男女が水着で一緒に入浴できる混浴露天風呂もあります。
翌日は、まず湯町窯へ。代表作は、民藝運動にも関わったイギリス人陶芸家バーナード・リーチのスリップウェア。3代目福間琇士さんの手により、取っ手があって持ちやすいカップが作られます。
宍道湖畔に建つ喫茶店「梢庵」では、島根県内の40もの窯元から集められた陶器のコーヒーカップが揃っていて、エルサルバドルとパナマ産に指定されたコーヒー豆を焙煎しています。
松江市近郊の「袖師窯」では、5代目小野友彦氏などの陶工が、皿や椀、カップなどさまざまな器を作っています。「器ごとに使い分けて、日本の食文化を感じてもらえたら」と小野さんは話します。
宍道湖畔を西へ進むと「湯の川温泉」があります。田園地帯に6軒の宿が建つ小さな温泉地で、弱アルカリ性の温泉は名湯のひとつに数えられています。宿「松園」の奥のエリアは、まるで古代の宮殿や高床式倉庫のような造りで、貸切風呂もあります。
出西コースは、日本海の海の幸や島根牛の炭火焼きなど旬の食材を使った前菜などが、同町内にある「出西窯」の食器で提供されます。
「出西窯」は14名の陶工を抱える大きな窯元。1年に4回、火を入れる登り窯では、一度に約3000個を焼くことができます。白、黒、琥珀色のほか、コバルトブルーがこの窯を象徴する釉薬です。登り窯や工房は自由に見学でき、敷地内のベーカリーカフェでは焼き立てのパンやランチを楽しめます。
「出雲民藝館」は、裕福な農家の米蔵を改装し、島根県を中心に19世紀後半から20世紀初頭にかけて作られた陶磁器、木工品、染織品などを展示しています。お土産として購入できるスタンドには、山陰の工芸品や陶磁器がたくさん並んでいます。
旅の最後には、秋に全国からさまざまな神様が集まる出雲大社を訪れます。
縁結びの神様として知られ、境内へと続く神門通りには土産物店や飲食店が並んでいます。